10月29日、中国政府は1993年から25年間禁止されていた
サイの角およびトラの骨など関連製品の売買を、科学研究や医療、
文化財や文化交流目的に限って許可するという
大きな方針転換を発表した。
しかしながら、保護団体などの激しい反対を受け
11月12日、中国政府はその実施を延長することを決定した。
思いがけない嬉しいニュースであったが、
中止の決定ではないところにまだ不安がある。
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もし、サイ角売買の一部解除が実施された場合の
サイへの影響について考えてみたい。
中国政府は、これらの限定された目的で使用する
サイの角の使用は、あくまでも以下に示す
厳格な条件下に限るとしている。
”使用するサイの角は、取引量も規制し、
動物園を除く飼育施設で繁殖された
サイから得る角のみに限る。”
”医療目的として使用できるのは、
国家が認定した医療機関の認定医に限る。”
これだけ厳しい条件を課していれば、
野生のサイに影響を及ぼす恐れはない、
というのが中国政府の主張なのであろうが、
現実はそんなに楽観できるものではない。
まず、この決定のもっとも憂慮すべき影響は、
ベトナムや中国に迷信として伝わる
「サイの角の薬効」に関して、
中国が国家的に「お墨付き」を
与えてしまうことである。
密猟が急増したここ10年、サイの密猟を止めるために
あらゆる保護団体が懸命な努力をしてきたのは、
「サイの角には薬効はない」という科学的事実を、
サイ角の薬効の迷信を信じる中国やベトナムの
サイ角消費者である富裕層に伝えることであった。
そして、その努力を一瞬にして水泡に帰すのが
10月下旬に発表されたサイ角売買の禁止解除の
決定なのである。
国家がその効果を保証する確かな効果のある薬ならば、
どんなに高価でも違法でも、病に苦しむ家族のために
手に入れたいと、今まで以上に患者の家族が
考える当然のことではないか。
病院で合法的に入手できなかった人々は、
密売品をこれまで以上に法外な値段で密売業者に
売りつけられ、結果的いサイの密猟にさらに
拍車がかかるのは誰でも容易に想像できることだ。
象牙の例もあるように、一部の合法取引の存在が
違法取引の隠れみのとなり、違法取引をさらに
増加させる可能性も高いと指摘されている。
WWFやWild Aidを始めとする世界の多くの
野生動物保護団体や保護活動家、研究者などが即座に
「10月の中国の決定は、サイに破滅的な影響を
もたらしかねない」と大変な懸念を示していた。
中国政府は2016年には、国内の象牙販売の禁止という
日本政府も見習ってほしい大英断を下し、
ゾウの密猟を減らすために協力する姿勢を
世界から評価されていたのに、どうして
サイが角のための密猟の増加で絶滅危機にある状況で
サイ角の売買の解禁の動きをしたのであろうか?
中国政府はその理由については明らかに
しなかった。
50万人の漢方薬医師がいる大きな漢方薬市場の強化を
狙っているという見方もある。
また、トラやサイの飼育産業に利益をもたらそうと
しているのでは?という保護団体の推測もある。
実際、中国全土には200ほどの合法的な
トラ牧場があり、野生のトラの2倍の
6000頭のトラが飼育されているという
驚くべき情報さえある。
現在、中国全土にアフリカやインド、ネパールから
連れて来られたサイがどれくらい飼育されているのか
わからないが、南アフリカには飼育数が千頭を超える
サイ牧場もあり、経営者たちは政府や環境団体に、
今は禁止されているサイ角の国外輸出の解禁を訴えている。
11月12日のサイ角売買解禁措置の延長の発表で
中国政府はその理由に言及していないが、ともかく、
25年前に決定されたサイ角とトラの骨の売買禁止の
措置の有効性が継続中であることは明らかにされた。
いつまでの延期なのかは示されていないが、
このまま中止の方向に向かうことを
切実に願うのみだ。
中国がサイ角売買を条件付き解禁を一度は決定したことを
踏まえて、サイの圧倒的多数の飼育国である
南アフリカのサイ角売買に関する政府の今後の動きも
注目されるであろう。
せっかく少し減少傾向のある密猟がまた増えることが
ないよう祈る。