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親愛なる犀たちへ

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三浦英之·著「牙」について

今月、“ アフリカゾウの「密猟組織」を追って "
という副題が添えられた「牙」という本が
出版された。

「小学館ノンフィクション大賞」を受賞した作品だ。

著者は、アフリカ特派員として2015年から
アフリカゾウの密猟問題を本格的に取材した
朝日新聞記者の三浦英之氏。



実際の密猟に手を染める人物に
直接の接触を試みた著者の、日本人記者としての
感覚に基づく取材結果を、日本語で読める
本当に貴重な記録だ。

著者は、この問題に取り組むに当たって、
その方向性について、NPO「アフリカゾウの涙」の
共同代表でケニヤのマサイマラで獣医として野生動物の
保護活動をしている滝田明日香にアドバイスを求めた。

”レンジャーへの同行取材や密猟経験者への
インタビューは珍しくないが、密猟組織に
切り込む取材は少ない。それは危険で困難なこと
だが、ジャーナリストの仕事として遣り甲斐が
あるだろう。” というのが彼女の答えだった。


私も毎日のようにサイの密猟関係の情報を
検索しているが、見つかるのは、
サイの密猟や角の密売に関わって逮捕された 
” 運の悪い ” 犯人たちに関する報道のみで、
彼らを操る大きな力については
伝えられることはない。

象牙とサイ角が同時に押収されることが
多いことからもわかるように、
象の密猟もサイの密猟も同じ構造のなかで
起きていることだ。

だから、この本を読みながら、これまでたくさん
目を通してきたサイの密猟や角の押収についての
英語のネット記事の、のっぺりした内容が、
現実として立体的に目の前に立ち上がって
くるような感覚を覚えて、とても刺激的だった。


ケニヤの中国大使館からの象牙の密輸に
直接携わった人物への画期的なインタビューが
実現した直後に、中国大使館の男が突然、
著者の前に現れた下りは、ミステリー小説を
読んでいるようでドキドキした。

大使館員は著者に、
「これ以上関わると何が起こるかわからないぞ。」
という警告をするために来たのだった。

ジャーナリストの仕事は、関わる対象によっては
本当に命がけだということがよく伝わる
エピソードだ。


結局、著者も中国大使館でのこの件について
最終的な裏付けが足りず記事にすることは
できなかったそうであるが、この本の出版によって
大使館ぐるみの象牙密輸事件の可能性について
広く示唆することには成功している。


タンザニアで象牙の密輸を取り仕切る
中国人ビジネス界の超大物「象牙女王」
についても詳しく書かれていたが、
私がインターネットのニュース記事を読んで
抱いていた彼女のイメージと実際の人物像が
かなり違っていたのも面白かった。


以下は、著者が裁判所で彼女を撮影した瞬間、
本人が気づいたかと思われたときの描写だ。

(本文 P134 より)
”彼女はその場で一旦立ち止まると、胸元のシャツの
ボタンを留め直し、慌てて身繕いを始めたのである。

アフリカではあまり見られない、東洋人の女性らしい
仕種だった。その「潔癖さ」の向こう側に、私は
遠く日本で暮らしている母親の姿を見たような
気がして、一瞬、胸をつかれた。”


私は、「象牙女王」を強欲な鬼婆のようなイメージで
想像していたが、スワヒリ語も堪能な彼女をよく知る 
現地の”密猟者”の証言によると、とても面倒見みがよく親切で、
象牙を値切らない ”いい人” だったようだ。


重さ当たりの密売価格が象牙よりも
はるかに高いにも拘らずサイの角には、
彼女がほとんど興味を示さなかったことも
この本の先程の密猟者の話で初めて知ったが、
それはサイにとっては幸運なことだった。


参照 :

700本の象牙を密輸した罪で、2015年に逮捕された
象牙女王、”Ivory Queen” に、禁錮15年の実刑判決が
下されたという今年2月のニュース記事 ↓


また、2016年に南アフリカで開催された
ワシントン条約締結国会議での象牙市場の
閉鎖をめぐる攻防戦で、国内の象牙市場の存続のため
迷うことなく突き進む日本代表団の
「巧妙な作戦展開」が詳しく伝えられている
ところも大変興味深く読んだ。それが日本の
ことだと思うと、アフリカゾウの絶滅を
阻止したい立場から、とても悔しく
悲しい思いに駆られるものであったが。


これは、アフリカゾウの密猟組織を追った
ドキュメンタリー作品であるが、
サイの密猟問題の視点からも読みごたえがあった。

この本によって、多くの日本の人々が、
ゾウの密猟問題に関心をもち、彼らを絶滅させない
ために、今後は誰も象牙製品を買わなくなることを
そして、日本が象牙売買を禁止することを願う。








by dearhino | 2019-05-26 06:29 | アフリカ | Comments(0)
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